組織培養・細胞培養の参考情報
組織培養・細胞培養の参考情報
組織培養・細胞培養とは?

生物の細胞、組織または器官をガラスやプラスチック容器などの人工の容器内(In Vitro)で、維持・増殖させること。
培養方法により下記3種類に分けられますが、組織培養との言葉も、細胞培養を示していることが多いようです。

●細胞培養(CELL CULTURE)
●組織培養(TISSUE CULTURE)
●器官培養(ORGAN CULTURE)

なぜ細胞培養が行われるようになったのか?

●生体と比べ単純化された系で、実験する事が出来るため
●動物実験と比べ、安価で、実験期間が短くてすむため
●有用な細胞生産物(抗体など)を産生するため

その後、遺伝子操作を始めとする分子生物学の発展により、細胞培養は、ますます重要な研究ツールとなっています。

細胞培養に必要な機器・消耗品について

●機器類

・安全キャビネット・クリーンベンチ
・CO2インキュベーター
・倒立位相差顕微鏡
・遠心機
・吸引ポンプ
・凍結保存容器
・オートクレーブ
・ウォーターバス
・冷蔵庫・冷凍庫など

●培養用試薬

・培地
・血清(FBSなど)
・細胞解離試薬(トリプシンなど)
・成長因子
・細胞外基質(コラーゲン、ファイブロネクチンなど)
 ※コート済みプラスチック容器
・細胞保存液(10%DMSO+20~90%血清+培地や、市販品)など

●培養用プラスチック製品・他器具

・細胞培養用ディッシュ・フラスコ・マイクロプレートなど
・遠沈管・チューブ
・ピペット
・クライオバイアル(凍結保存用チューブ)
・セルスクレーパー
・ガラスベースディッシュ
・パスツールピペット
・培地瓶(メディウム瓶)
・ピンセット
・ハサミ
・血球計算盤など

●その他

・白衣・無塵衣
・キャップ
・プラスチック手袋
・消毒用アルコール(噴霧器)など

培地の役割とは?

生体より取り出された細胞が人工の環境で発育するためには、生体と近い培養環境が必要です。
そのためには、pH、浸透圧が調整された増殖に必要な栄養分を含む培地が必要となります。
細胞培養では、培養の目的、細胞の種類により、様々な培地が用いられています。
動物細胞の培養には、合成培地に10%程度の血清が添加された培地が一般的に使用されていますが、血清なしで培養可能な無血清培地も様々な製品が開発・販売されています。

●培地に含まれる主な組成
・無機塩類 ・・・・・・ pH、浸透圧調整
・アミノ酸、ビタミン類、糖類・・・・・・ 栄養素
・血清・・・・・・ ホルモン、成長因子など
・ホルモン、成長因子
・抗生物質・・・・・・ 細菌・カビの繁殖を抑制

●多くの動物細胞用培地で、培地のpHが、pH7付近を保っている事を目視で確認できるように、指示薬として、フェノールレッド(オレンジ~赤)が添加されています。

⇒培地が黄色側(酸性)に傾いている場合
・細胞により栄養分が消費され、乳酸等の老廃物が溜まってきた---培地交換が必要
・細菌・カビなどのコンタミ(培地が濁っている) ・・・・・・ 廃棄(オートクレーブ処理)が必要

⇒培地がピンク側(アルカリ性)に傾いている場合
・フラスコキャップが閉まっていてCO2ガスが入っていない。 ・・・・・・ フラスコキャップを半開にする。
・CO2インキュベーターの不具合、CO2ガスボンベが空になっている。 ・・・・・・ インキュベーター確認、CO2ボンベ交換

なぜプラスチック製品を使用するようになったのか?

●材料の組成がガラスより安定している。
●色々な形状のものを容易に作製出来る
●顕微鏡観察に適した平滑な面が作りやすい
●細胞の接着に適した表面処理が出来る
●品質管理がしやすい
●安価である

基本的な細胞培養作業の流れ

●初代培養法

●接着細胞の継代法

●浮遊細胞の継代法

●凍結保存法

用語メモ
継代培養 培養細胞を培養容器より取り出して新しい培養容器に移し、再び培養する操作を継代という。
コロニー 単一細胞または複数の細胞が、増殖して形成する子孫のかたまりのこと。
コンタミ(コンタミネーション) 試料に不純物が混じること。汚染、試料に含まれる不純物。
細胞外基質(ECM) コラーゲン、ファイブロネクチン、ビトロネクチンなど細胞の外にある細胞付着に関与する糖タンパク質。
細胞世代時間 1個の細胞のある分裂から、次の分裂までの時間間隔を示す。
初代培養 生体から直接取った細胞・組織または器官からスタートして、維持または増殖させること。
スクリーニング ある特別なものを調査集団の中から選別してくる操作のこと。
単層培養 培養した細胞が容器の表面に、一層に付着して増殖するものをいう。
ネクローシス 壊死。細胞や組織の比較的制御されない死の過程。細胞環境が著しく悪化したために起こる細胞の死。
胚性幹細胞(ES細胞) 初期の胚の中の細胞と同じように多くの分化能を持った細胞。
付着性細胞、接着性細胞 増殖のために基質への接着を必要とする細胞。
浮遊性細胞 付着非依存性、細胞容器表面に付着しなくても、浮遊状態で増える細胞。
浮遊培養 細胞を浮遊した状態で培養すること。低接着容器を用いる方法や回転や振とうを与える方法がある。
細胞分裂回数(PDL) 細胞が分裂した回数。
閉鎖系培養 フラスコのキャップを閉じた状態での培養。
変異原性 突然変異が生じる頻度をあける要因の能力。
アポトーシス プログラム細胞死。細胞が生存のために不必要な細胞を除去することでおこる細胞死。アポトーシスでは、核、細胞質が凝縮し、死細胞はマクロファージの食作用を受ける。
エンドトキシン 内毒素。グラム陰性細菌の細胞壁に結合したリポ多糖。発熱物質(パイロジェン)の一種。細菌が自己分解する時や機械的に破壊された時に放出される。
開放系培養 ディッシュ、マイクロプレート、もしくはフラスコのキャップを半開放状態にした培養で、通常5%CO2 の水蒸気飽 和の環境で培養する。
幹細胞 自己複製を行い、自身の細胞集団を長く維持でき、複数種の前駆細胞や分化細胞を産出する。組織や臓器全体を作り出す能力を持っている細胞。
癌細胞 成長や分裂などの制御から外れて、分裂を続ける娘細胞のクローンを生産し、隣接する組織に浸入して、その正常な働きを妨げる細胞。良性(その場にとどまっている)と悪性(リンパ系、血液系を通じて転移する)がある。
細胞株 初代培養からでも細胞系からでも、選択またはクローニングによって特異な性格、あるいは(遺伝的な)標識を持つようになった細胞のことをいう。特異な性格または標識は、その後の継代培養中も保持される。
ポピュレーション ダブリング タイム (細胞集団倍加時間) 細胞数が2倍になるのに要する時間のこと。例えば1×106 個の細胞が、2×106 個になるまでの時間のことを示す。2分裂する細胞の場合は世代時間に近いが、同じとは限らない。
パイロジェン 発熱性物質。動物に注射すると発熱させる物質の総称。細菌の作る内毒素(エンドトキシンendotoxin)がその主なもの。耐熱性も高いため、除去するためには250℃、30分以上の処理が必要。
細胞分裂回数(population doubling level : PDL)とポピュレーション ダブリング タイム(population doubling time)の計算方法

例 : 細胞を1×105cells/フラスコで播種し、3日間間培養後、継代のために細胞を回収したところ、1.6×106cells/フラスコだった場合。

播種細胞数 : A
回収細胞数 : B
分裂回数 = 3.32×log B/A

上記の式に当てはめると、
A = 1×105
B = 1.6×106
分裂回数= 3.32×log(1.6×106)/(1×105) = 3.32×log16
    = 3.32×1.204 = 3.99 = 約4(4PDLs)4回分裂したとの計算になります。

3日間(72時間)で4回分裂しているので、
ポピュレーション ダブリング タイム = 72/4 = 18 18時間で2倍に増殖したとの計算になります。

※分裂回数に限りがある正常細胞などでは、寿命に近付くと、分裂速度(細胞集団倍加時間)が遅くなっていきます。
※細胞分裂回数(population doubling level:PDL)と継代回数(passage)は、異なります。